レインガーデンとは、屋根や地表に降った雨水を集めて一時的に溜め、ゆっくり地面に浸透させることができる植栽スペースです。
レインガーデンが兼ね備えている主な複合的メリットは以下のとおりです。
- 心理的な利益:
緑豊かな憩いの場を提供することによるストレス軽減や心理的健康への寄与 - 生物多様性の向上:
多様な植物を植えることで開発地における生き物への生息地を提供 - ヒートアイランド現象の緩和:
コンクリート等の蓄熱による気温上昇を植物の蒸発散によって緩和 - 水資源の持続的な管理:
雨水を有効利用し、地下水位の維持や水資源の再生に貢献 - 教育的価値:
持続可能な雨水管理の重要性や自然環境の保護について意識を高めるツールとして活用可能
雨水を一時的に溜めて、その場で浸透するという自然な水循環を真似ることで、雨水から汚染物質を自然に除去して水質が改善するとともに、下水道や河川への流入を減らすことで洪水リスクの軽減に貢献することができます。

レインガーデンが必要とされる背景
今、あなたはどのような場所で暮らしていますか?
住んでいる家や、そこから最寄り駅や職場、スーパーまでの道のりを想像してみてください。
そのほとんどがアスファルトやコンクリートで舗装されている人工的な環境が多いのではないかと思います。
そのような私たちの日々の暮らしを快適かつ安全に支えている、人工的な素材で作られているもの(道路や橋、トンネル、上下水道、港、堤防、ダムなど)のことを総称して『グレーインフラ』と呼びます。
そして、このような硬い素材で覆われた場所に雨が降ったときには、できるだけ早く排水溝や雨水管に雨の水を集めて、川や海に排水されるように計画されています。
しかし、気候変動の影響から、日本では1時間あたりの降水量が50mmを超えるような非常に強い雨の回数が増え続けていて、従来のグレーインフラだけでは対応できずに、都市型水害がたびたび起きるようになりました。
水害の被害額に関しても、2018年は約1兆4000億円、2019年は約2兆2000億円と大きな影響が出てしまうこともあります。
そのため、私たちが豊かな生活をこれからも持続的に送っていくためには従来のグレーインフラだけでなく、自然環境の持つ多様な機能を活かした『グリーンインフラ』をうまく組み合わせていくことが重要だと考えられています。
また、生物多様性の危機についても私たちが直面している大きな課題です。過去に5回あった大量絶滅は自然減少によるものでしたが、現在すでに進行中だと考えられている大量絶滅は人間活動による影響が主な原因です。
生き物が棲む場所を切り開いたり埋め立てたりして開発することや、里地里山の利用が減ったことで手入れが不足することなどで、生態系のバランスが崩れていることは想像しやすいかと思います。
こうした生物多様性の危機への対応についてもグリーンインフラの活用が求められています。

レインガーデンの位置付け
グリーンインフラは、自然または自然を模倣したシステムを通して、自然環境の持つ多様な機能を発揮し、私たちの快適で持続可能な住環境を目指しています。
その中には、緑や水辺を感じられる公園整備から田んぼ保全や森林の適切な間伐などまで広範囲な取り組みを含んでいます。
このグリーンインフラを構成する要素の1つに低影響開発(LID:Low Impact Development)という手法があります。
これは、土地を開発をするときに、自然の水循環や生態系に与える影響を最小限に抑えることを目的とした開発方法のことで、雨水を出来るだけその場所で管理して、自然に近い状態で地表や地下への水の流れを模倣することに重点を置いています。
このLIDを実現するための技術には、雨水の浸透や貯留、再利用、自然浄化といった自然のプロセスを促すために、透水性舗装や屋上緑化、雨水タンクなど様々な方法があり、その中の1つとしてレインガーデンがあります。
レインガーデンの必要性

グレーインフラやグリーンインフラは『インフラ』というだけあって、直感的に大規模なものがイメージされやすいですが、レインガーデンは住宅地や公共施設、商業施設、工場、空き地などの小さなスペースでも柔軟に作ることができ、また、比較的簡単かつ低コストで作れることも大きな特徴です。
つまり、個人やコミュニティレベルでも、限られたスペースのなかで従来の庭と同じように美しさや楽しさを受け取りながら、地域の水管理や生物多様性などに貢献することができるため、持続的な暮らしや地域を目指していくための魅力的な選択肢の1つといえます。
5. レインガーデンを作るときの流れとルール
つぎはレインガーデンを作るときの基本的な流れとルールをご紹介します。
ただし、レインガーデンを作る目的、好み、予算、技術、敷地条件などによって柔軟にアレンジすることが大切です。
- 作る場所を決める
・集めた雨水が建物に影響を与えないように建物から3m以上離れた場所に作る
・大きな木の下、急傾斜地、地下水位が高い場所などは適さない - 貯める雨の量を計算する
・敷地内の不透水面(屋根やカーポートなど)の不透水面積を計算する
・どれくらいの量の雨水を管理したいか決める - 土壌の吸水力を測定する
・作りたい場所の土壌がどれだけ水を吸収できるのか浸透テストをする
・簡易テスト方法:直径20cm、深さ20cmの穴を掘って水で満たし、1時間で約2.5cm以上の水が浸透する場合は、レインガーデンに適していると考えられる
・必要に応じて出来るだけ環境負荷の少ない方法で土壌改良を行い浸透性を高める - レインガーデンの大きさを決める
・集めたい雨水の量と土壌の吸水力に基づき、レインガーデンの大きさと深さ(目安は15~45cm程度)を決める - 植物を植える
・レインガーデンは3つのゾーン(水没する可能性のある底面、斜面、水はけの良い頂上周辺)で環境が異なるため、それぞれに適した植物を計画する
・自生植物や非侵略的な植物を選択する - お手入れする
・植物を植えてから根付くまでの2〜3年程度は水やりが必要
・しっかり根付いたら水やりはほとんど必要なくなる
・排水口が詰まっていないか定期的に確認する
・雑草は大きくなりすぎないように適度に管理する
まとめ
レインガーデンは、単に庭を通して安らぎや美しさを提供するだけでなく、洪水リスクの軽減や、水質の改善、生物多様性の保護など、複合的なメリットを提供できることが特徴です。
また、使い方によっては、地域コミュニティの意識を高めることや、環境教育の場として役立てることもできます。
今回の記事では、私たちが持続可能な生活をしていく上でのレインガーデンの位置付けや必要性、基本的な作り方について学びました。
もっと詳しく知りたいという方は以下に参考資料のリンクを記載しましたので、そちらをご覧ください。
このブログでも引き続き一緒に学んでいただけると嬉しいです。
参考資料
・特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会
・【導入編】グリーンインフラが必要とされる背景
・グリーンインフラとは 取り入れるメリットや課題、事例を紹介
・MODERN RAINGAEDEN
・グリーンインフラストラクチャー 米国に学ぶ実践
・生物多様性に迫る危機