「流域」という言葉を聞いたことはありますか?
流域について知ることは、私たちの暮らしを守っていくためにとても大切です。
なぜなら、日本では洪水時に川の水面よりも低い土地が国土の10%を占めており、多くの都市が海や河川の水位より低い場所につくられているからです。
さらに、都市部を流れる河川流域の多くは、開発によって水をためる場所(遊水池)が減っています。そのため、普段は水量が少なくても、大雨が降ると一気に雨水が集まってしまいます。
川から水があふれると、街の機能がストップしたり、地下が水浸しになったりして、洪水被害のリスクが高くなります。
実は、このような場所に日本の人口の約50%、資産の75%が集中が集中しています。
そこで今、洪水のリスクを減らすために、行政や企業、様々な団体、そして私たち市民が力を合わせて対策に取り組むことが進められています。
つまり、私たちの暮らしを守るには、気候変動で増える集中豪雨や水害の危険を「自分ごと」として考え、一人ひとりが何かしらの行動を起こすことが求められているということです。
その行動の一つとして「レインガーデン」があります。
今回は、流域とは何か、そしてレインガーデンがどのように流域とつながっているかについて学んでいきましょう。
流域(りゅういき)とは?
流域は「地形によって雨水が集まる場所全体」のことです。地形で区切られた範囲の水は、最終的に一つの場所(川や湖、海など)に向かって集まります。
流域は、小さな範囲から大きな範囲まで、入れ子のような構造になっていて、小さな流域が集まって中くらいの流域になり、中くらいの流域が集まってさらに大きな流域になります。
そのため、水害や水質汚染などの問題は、市や県といった行政の区切りではなく「流域」という単位で考えることが大切です。
例えば、SLSの事務所の住所は「愛知県豊田市浄水町」ですが、流域で考えると「日本列島、本州、東海地方、境川流域、逢妻女川流域、布袋子川流域、北東」と表すことができます。
このように考えると、今住んでいる地域に流れる水がどの範囲から集まってくるのか、想像しやすくなると思います。
さらに、住んでいる家を例にするとイメージしやすいかもしれません。
家に降った雨は、屋根を伝って雨どいに集まり、縦どいを通って雨水ますへ流れ、最後は雨水管を通って川へと流れていきます。
このように、家に降る雨の行き先を考えることも流域について考えることです。一方で、大陸に降る雨が海に流れていくことを想像すれば、地球規模の流域にもイメージを膨らませることができます。
そして、これらの小さな流域と大きな流域は入れ子構造となっているため、つながりのある一つの環境として捉えることができるのです。
流域の環境保全

流域という水が集まる範囲について考えることは、安心して暮らせる場所を守っていくために重要です。
雨が降った後、水がどのように地面を流れ、地下水として土に染み込み、川や湖、海へと流れていくのか。また、流域内の土地の使い方や産業が、水の流れや水質にどんな影響を与えるのかを考えることが大切です。
都会では雨水の管理が大きな課題です。
街が発展すると、アスファルトで覆われた道路や建物が増え、雨水が地面に染み込みにくくなります。その結果、洪水の危険が高まり、川や湖への負担が増えます。
さらに、私たちの生活から出る汚れた水による水質汚染も問題です。
川や湖の水をきれいにするには、森林や農地の管理、街づくりの計画など、様々な取り組みが必要なので、流域全体の健康を保つには、多くの人々が協力することが大切です。
これらの問題を緩和する方法の一つとして、レインガーデンが注目されています。
レインガーデンの役割
特に、アスファルトで覆われた場所が多い都会や住宅地では、雨が地面に染み込む場所が少ないため、浸水を防ぐために雨水を素早く下水管に流す必要がありました。
しかし、最近では気候変動の影響で、短時間に大量の雨が降ることが増えました。そのため、従来のインフラだけでは対応しきれない場面が出てきています。
冒頭でも述べたように、都会には日本の人口の約半分、資産の75%が集中しているため、一度でも洪水や浸水が起きると、大きな被害になってしまう可能性があります。
そこで今、従来のインフラに加えて、自然の力を活かした「グリーンインフラ」という考え方が広まっています。
グリーンインフラの活用方法は場所や状況によって様々です。川の周りでは、田畑の整備、湿地の再生、自然に優しい川づくり、木を植えること、間引きなど、様々な取り組みが行われています。また、環境教育などの人を育てる活動も大切です。
レインガーデンはこのようなグリーンインフラのなかの一つです。
レインガーデンは、雨水を一時的にためて、ゆっくりと地面に染み込ませる働きがあるため、大雨が降ったときに、下水道などの設備への負担を軽くする役割を果たします。
屋根や駐車場などから雨水が集まりやすい場所につくることで、効果的に雨水を管理でき、また、雨水と一緒に流れてくる様々な汚れも、土や植物によって吸着・浄化されるので、水質改善にも役立ちます。
まとめ
レインガーデンの良いところは、大きな設備と比べて、様々な場所に柔軟に設置できることです。
一方で、小さな規模になることが多いため、一つだけではそれほど大きな効果は期待できません。様々な場所にたくさん設置されることが大切です。
そのため、庭を新しくつくるときやリフォームするとき、また、会社の緑地管理や環境への取り組みを考えるときには、レインガーデンの導入を検討していただきたいと思います。
最近では、「市民(Civic)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた「シビックテック」という、市民が様々な技術を使って、行政の問題や社会の課題を解決しようとする取り組みが多くなってきました。
一般的にシビックテックでは、データやITの技術が使われることが多いですが、レインガーデンなどのグリーンインフラにも応用できる可能性があります。
近年の気候変動や生物多様性の減少を考えると、私たち自身の手でレインガーデンをつくることで、環境を守る意識を高め、長く続く地域づくりを進めていくことはとても大切だと思います。
その際には、地域の文化や伝統を大切にしながら、その土地の植物や材料を使うことで、自然のバランスを保ちつつ、地域の特徴を活かしたレインガーデンをデザインしていくことが重要です。
もちろん、レインガーデンは雨水管理だけでなく、多様な生き物が集まる場所になったり、美しい景色を作り出したりと、普通の庭のように様々な良さがあります。
また、地域の人々が参加しやすく、長く続く環境保護活動のきっかけにもなる可能性があります。
環境保全や流域を意識したアクションをしたいと思ったときには、ぜひレインガーデンも検討してみてくださいね。