水質汚染とレインガーデンの可能性

私たちが日々使う水道水は、下水道や浄水場などの公共インフラによって支えられています。料理をしたり手を洗ったりするときに、蛇口をひねればいつでも清潔な水が出てくるのは、こうした設備のおかげです。

しかし、近年は都市化や気候変動の影響により、従来の公共インフラだけでは対応が難しい場面が増えています。そこで注目されているのが、自然の力を利用した「グリーンインフラ」や、その1つである「レインガーデン」です。

今回は、水質汚染、特に広範囲の不特定な場所から汚れが集まる「ノンポイント汚染」の現状と、なぜグリーンインフラやレインガーデンが水質汚染にどのように貢献できるのかについて学びたいと思います。


ノンポイント汚染とは

水質汚染の原因のうち、工場など特定の場所から排出されるものは「ポイント汚染」と呼ばれ、汚染源を特定しやすいです。一方、道路や住宅地、農地などから雨水と一緒に汚れが流れ出すものを「ノンポイント汚染」といいます。

ノンポイント汚染は以下の例のように面的に発生しています。

  • タイヤが摩耗して発生する微細なゴム粉や金属粉
  • 排気ガスに含まれる鉛などの重金属や窒素酸化物など
  • 自動車のブレーキパッドの摩耗粉
  • エンジンオイルやブレーキオイルなどのオイル漏れ
  • 石油や石炭などが燃える時に発生する硫黄酸化物など
  • 農地からの肥料や農薬

各家庭や事業所などの排出口が明確な排水であれば、下水道や浄水場などの処理施設で対応できます。しかし、ノンポイント汚染は面的に散らばった汚染物質が屋根や地面にたまり、雨水に混ざって河川などに直接流れ出るため対策が難しいとされています。

水質汚染の原因となる代表的な物質

ノンポイント汚染源からの水質汚濁は、おもに窒素・りん等による有機汚濁が中心とされていますが、その他にも水質汚濁を引き起こす物質は様々なものがあります。

  • 栄養塩類(窒素やリン)
  • 重金属(鉛、水銀、カドミウムなど)
  • 油・化学物質(農薬、塗料、洗剤など)
  • マイクロプラスチック

なぜグリーンインフラやレインガーデンが必要なのか

公共インフラは確かに大切ですが、都市化が進み、雨の降り方が極端に変化している現代では、下水道や浄水場だけに頼っていては対応しきれない状況が増えています。また、ノンポイント汚染への対策も必要です。

そこで注目されているのが、自然の力を活用した「グリーンインフラ」です。

グリーンインフラとは、緑地や湿地、森林などの自然を利用して、洪水や水質汚染などの問題をやわらげようとする取り組みのことです。

グリーンインフラの考え方は、「雨水をなるべく自然のまま循環させること」で、過剰な雨水を一時的に貯めたり、汚染物質を川や海に直接流さずに土や植物でろ過・分解したりする点に特徴があります。

グリーンインフラを街中に分散して設けることで、汚れを発生源の近くで少しずつ自然に除去するとともに、洪水リスクも減らすことができます。

国土交通省も、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能(生物の生息・生育の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用して、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるグリーンインフラに関する取組の推進を掲げています。

レインガーデンがもたらすメリットとは

レインガーデンは、グリーンインフラを具体的に実践する方法の1つで、以下のような特徴からノンポイント汚染を防ぐ手段として活用できると考えられます。

1. 雨水を一時的にためる

庭や道路脇にくぼみを作り、雨水が一気に流れ出さないようにします。流れが緩やかになることで、汚れを含んだ雨水が急激に川や海へ流れこむのを防ぎます。

2. 自然のろ過機能

土や砂利、植物の根がフィルターの役割を果たします。窒素やリン、油分などを取り込み、分解や吸着が行われるため、水質汚染を和らげる効果が期待できます。

3. 地下水の補給と洪水対策

地面にしみこんだ水は、地下水となって地域の水源を潤します。また、雨水が一気に下水道に流れ込まないようにすることから都市型洪水を減らす効果もあります。


レインガーデンの効果的な設置場所

レインガーデンは、雨水が多く集まる場所や、コンクリートで覆われていて水がしみこみにくい場所ほど効果を発揮します。具体的には、次のような場所が挙げられます。

1. 住宅の庭先

屋根から流れ落ちる雨どいの排水をレインガーデンへ導き、雨水を地面に吸収させる仕組みを作ると、家庭から出るノンポイント汚染の一部を抑えられます。

2. 駐車場や道路脇

車のタイヤくずや油分などが雨とともに流れる場所では、レインガーデンで汚れを取り込むことが有効です。

3. 公園や学校の敷地

広いスペースを活かして複数のレインガーデンを配置すれば、ノンポイント汚染対策だけでなく、子どもたちが自然学習を体験できる場にもなります。

4. 市街地の沿道や植え込み

アスファルトやコンクリートが多い都市部では、水の逃げ場が少なくなっています。歩道脇の植え込みをレインガーデンに改良すれば、水質保全と洪水対策を同時に進められます。

海外での事例と日本の動き

アメリカでは、シアトルのように都市全体でレインガーデンを導入する「グリーンインフラ」政策を進めている地域が多数存在します。集中豪雨が増えた近年、下水道設備だけでは処理しきれない雨水をレインガーデンなどのグリーンインフラで分散して処理することで、都市型洪水や水質汚染を軽減しています。

日本でも、環境省や国土交通省が中心となってグリーンインフラの取り組みを後押ししています。下水道や浄水場の整備を進めながらも、自然の力を活用して汚染を抑える仕組みを街中に増やしていくことで、社会全体のコストを抑えつつ安全で持続可能な水環境をつくることが目標とされています。

一方で、多くの自治体で雨水貯留浸透施設設置について、その工事費の一部を補助する制度はあるものの、レインガーデンのなどグリーンインフラの設置を補助対象に含める自治体はまだ多くないのが現状です。


まとめ

今回は以下のように水質汚染(主にノンポイント汚染)とレインガーデンの関係について学びました。

  1. 人間の活動によって排出される窒素やリンなどの栄養塩類、重金属、油・化学物質、マイクロプラスチックなどが水質汚染の原因となり、川や海、地下水の水質や生態系に影響を及ぼしている。
  2. 特にノンポイント汚染は、道路や農地、住宅地など広範囲から汚れが流れこむため、発生源を特定しにくく対策が難しい。
  3. 公共インフラ(下水道、浄水場)は必須だが、雨量の増加や汚染の拡散などにより、これだけでは十分に対処できない場合がある。
  4. グリーンインフラ(レインガーデンなど)は、雨水を自然に処理・ろ過する仕組みを取り入れることで、ノンポイント汚染の拡散を防ぎ、水質浄化や洪水対策に貢献できる。
  5. レインガーデンは、土や植物の力で汚れを取り除くフィルターとなり、地下水の補給や生態系の保全、景観向上にも効果がある。

私たちが暮らす地域の水質を守るには、身近な場所でのちょっとした工夫の積み重ねが大きな力になります。ノンポイント汚染を減らし、自然との共生を目指すうえで、グリーンインフラの活用は欠かせません。

レインガーデンは小さなスペースからでも始められる取り組みであり、自宅の庭でも設置することが可能です。下水道や浄水場といった公共インフラを維持しつつ、レインガーデンなどのグリーンインフラも組み合わせることで、より安全で持続可能な環境を次の世代へ引き継いでいきましょう。