レインガーデンに植える植物の基本的な考え方

In summer, in the garden in August, Korea, Liriope platyphylla has a long stick-like flower bed with many small, pretty purple flowers.

レインガーデンはただの美しい庭ではなく、都市や住宅地での洪水対策や地下水の再生、生物多様性の向上などに貢献することができる方法の1つです。

レインガーデンとはどんなものか、また、なぜ必要とされているかについての詳しい説明はこちらの記事からどうぞ。


今回は、レインガーデンを作ろうと思ったときに、実際にどんな植物を選ぶのが良いのか、そしてどのような場所に植えるのが良いのかといった基本的なことについて説明したいと思います。

基本的な植物選びの考え方

レインガーデンには一般的なお庭と同じように、地域の気候(温度や降雨量など)、土壌のpH値、植える場所の日当たり状況などを考慮して自由に植栽することができます。

ですが、せっかくレインガーデンを作るのですから、よりこだわって作っていきたいものです。

レインガーデンは雨水を集めて自然に浸透させることで地域の洪水リスクを軽減したり、地域の野生生物にとっての生息地を提供し生物多様性に貢献することができます。

その可能性を引き出すために、以下の3つのポイントを踏まえて適切な植物を選んでみてはいかがでしょうか?

1. 水質浄化能力の高い植物

一般的に、雨水は下水道を通って速やかに川や海に直接放出されています。

しかし、このとき道路や屋根などの不透水性表面に堆積している重金属や化学物質が、雨水と一緒に川や海に運ばれることが生物や生態系に影響を及ぼしています。

レインガーデンは、こうした水環境問題への有効な対策手段の一つとして考えられています。

レインガーデンに溜まった雨水が地面に浸透するときに、土壌とそこに植えられた多様な植物がフィルターとして機能し、雨水に含まれる重金属や化学物質が吸収、分解、浄化されて、汚染物質が川や海へ流れていくことを緩和する助けとなります。

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)の報告によると、レインガーデンは銅43〜97%,鉛70〜95%,亜鉛64〜95%, リン65〜87%,全窒素49〜67%,カルシウム27%の除去率があるとしています。

このような植物が根から水分や養分を吸収する能力を利用して、土壌や水などの汚染物質を除去する方法のことを「ファイトレメディエーション」といいますが、その効果を高めるためには、汚染物質を取り除く能力が高い植物を導入することが大切です。

しかし、現状では情報が少なく、適切な園芸植物の選定や栽培方法の最適化など、今後さらなる研究と技術開発が求められている段階です。

一例としては、いくつかの研究ではファイトレメディエーション効果の高い植物として、キンセンカ、ヒマワリ、セイヨウノコギリソウ、セイヨウカラシナ、キバナコスモス、ヤナギ、ポプラ、ソルガストラム・ヌタンスなどが挙げられています。

より詳しくは下記の参考資料などをご覧ください。

参考資料:
温暖化適応と雨庭まちづくり
植物を用いた浄化手法 (ファイトレメディエーション)実 用化の展望
ファイトレメディエーション(植物を用いた地盤の浄化法)について
環境修復とグラウンドカバープランツ 特に重金属土壌汚染を対象に
ファイトレメディエーションによる汚染土壌修復の現状と展望
住宅地道路排水由来の重金属および窒素の汚濁負荷に対する路面堆積物および大気降下物の寄与
雨天時道路排水における重金属流出負荷の小型採水装置を用いた実態評価

2. 地域の在来種や固有種

本来の分布域に生息・生育する生物のことを在来種、特定の国や地域にしか生息・生育・繁殖しない種のことを固定種といいます。

対して、外来種とは「人の活動によって本来の分布域の外の国や地域に導入(移動)された生物種」のことで、海外から日本に持ち込まれた生物だけでなく、 日本の在来種であっても、国内の分布していない地域に移動されると外来種となります。

お住まいの生態系を保全する観点からは、地域の在来種や固定種、在来種由来の園芸種などの導入を意識することが大切です。

ただし、園芸種の中には、日本の在来種と外来種の交雑によるものもあるため、外来種由来の園芸品種を植える場合は、生態系への影響に十分注意を払う必要があります。

特に、明らかに害のある「侵略的外来種」については扱わないようにしましょう。

注意が必要な外来種については「生態系被害防止外来種リスト」に掲載されているので、ぜひ確認してみてください。

一方で、すでに従来の生態系が大きく崩れているような都市部や住宅地においては、在来種だけでなく、侵略的ではない外来種を含めて新しい都市型の生態系を構築していくことも一つの選択肢だと考えられています。

もちろん、その場合においても外来種を導入する際は、十分な注意が必要です。

侵略性が低い外来種を慎重に選んだうえで、導入した外来種が生態系に及ぼさないように植えたああとも適切にモニタリングや管理を続けていく必要があります。

都市部における新しい生態系の構築は、在来種の保全と両立させながら都市環境と自然の調和を目指す試みといえます。

なお、地域の自生種や固定種の情報は通常、お住まいの自治体や専門機関などで得ることができるので、検索したり問い合わせたりしてみましょう。

また、樹木については、比較的在来種を探しやすいかと思いますが、ほとんどの広葉樹の苗は流通段階で採種地が明らかではないのが現状です。

しかし遺伝的撹乱を防ぐためにはできる限り産地が分かるものを選んだり、地域の木を活用したいと考えています。

SLSでは、地域の放置林や雑木林を整備しながら、その一部を庭木として活用する​山採りの木普及協会の活動に賛同しています。

庭に植える木が、地域の環境保全に繋がることに魅力を感じていただける方は、ぜひ山採りの木の導入を検討していただけると嬉しいです。豊田市周辺で雑木林の管理にお困りの方がいましたら、お力になれるかもしれませんのでSLSまでお声掛けください。

なお、草花については地域の在来種を店舗で手に入れることはさらに難しいです。

ただし、地域の草花は飛んできたり、もともと土の中にあったタネから自然と生えてきたりするので、そうした植物を全部抜くのではなく、適宜生かして育てていくことで、地域の生態系に貢献できる庭により近づいていきたいですね。

参考資料:
広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン

3. 環境適応性のある植物

レインガーデンでは雨水を溜めるための浅い窪地をつくります。

それによって水分条件が異なる複数のエリアがあるため、植物を植える場所を大きく3つに分けて考えるのがおすすめです。

それぞれのエリアでどの植物が適しているのか把握して植えることで、より健全に成長していきます。

  1. 低地エリア:通常時の乾燥と降雨時の水没にも耐えられる植物がおすすめ
    例)イグサ、ミソハギ、フジバカマ、サギソウ、カキツバタ、クリンソウ
  2. 高地エリア:乾燥を好む植物がおすすめ
    例)クガイソウ、アヤメ、カワラナデシコ、キキョウ、ヨメナ、シュウメイギク
  3. 斜面エリア:乾燥に強く、やや耐湿性もある植物がおすすめ
    例)オミナエシ、ヨメナ、ワレモコウ、ノカンゾウ、シュウメイギク、シモツケソウ
植物例:雨庭の主流化モデルの提案に資する雨庭の植栽デザイン手法の開発より参照

他にも、日本の気候に合うレインガーデン植物として研究されたRain Garden Plant®(レインガーデンプランツ)もあります。

まだ日本ではレインガーデンに適した植物の研究は少ないですが、ぜひリンク先の資料を参考にしてみてください。

まとめ

レインガーデンは、都市や住宅地での洪水対策や地下水の再生、生物多様性の向上に貢献できる方法の一つです。

そのレインガーデンの効果を高めるために以下の3つのポイントについてご紹介しました。

基本的な植物選びの考え方:

  1. 水質浄化能力の高い植物: 植物の根が水分や養分を吸収する際に、土壌や水中の汚染物質も除去します。この「ファイトレメディエーション」と呼ばれるプロセスは、雨水に含まれる重金属や化学物質を吸収、分解、浄化し、環境への負荷を軽減します。
  2. 地域の在来種や固有種の利用: 地域の生態系を保全するため、在来種や固有種の植物を選ぶことが推奨されます。外来種の中には侵略性が低い種もありますが、その導入には慎重な判断が求められます。
  3. 環境適応性のある植物: 水分条件が異なる複数のエリアに適した植物を植えることで、レインガーデン全体として健全な成長が期待できます。


また、レインガーデンは単に機能的なものではなく、出来るだけ多様な種類の植物を選び、それぞれの季節ごとにも楽しめるように、視覚的にも魅力的な空間になることを目指していきたいですね。

さらに余裕があれば、植物だけでなく水場や石を配置して、より多くの生き物が暮らしやすい場所にしていくことで、生き物の気配が多く感じられる豊かな環境にしていけると良いと思います。


忘れてはいけない大切なこととしては、レインガーデンも一般の庭と同じように定期的にお手入れを続けていくことです。

ご自身でのお手入れだけでは大変な場合は、お近くの園芸・造園業者に依頼しても良いと思います。豊田市周辺でしたらSLSでもこちらから承っているのでぜひお気軽にお声掛けください。

普段の生活のなかでこまめに庭を意識して、植物の成長を観察したり、適切な時期に剪定や草の管理を行うことで、病害虫の発生にも早く対応でき、植物が健康で美しい状態を保てるようになります。

日常的に楽しみながらお手入れしていくことで、レインガーデンは単に美しい庭というだけでなく、効果的な雨水管理と生物多様性への配慮が組み合わさり、地域の生態系全体に積極的に貢献することができます。

一方、まだ日本でのレインガーデンに関する研究や事例は少ないので、新しい情報や事例があればこちらのブログでも共有していきたいと思います。

しかし新しい取り組みであることを楽しみ、試行錯誤を重ねていくことはガーデニングの大きな楽しみといえます。

さらに、独自のノウハウやモニタリングデータを蓄積して、コミュニティでお互いに共有していくようなことができたら良いですね。