近年、地球温暖化に伴う気候変動の影響が顕在化しています。
ゲリラ豪雨などの極端な気象現象の増加、それに伴う水害の増加、生態系の変化など、私たちの生活環境に大きな脅威に晒されつつあります。
この気候変動への対策には「緩和策」と「適応策」があり、どちらも同時に進めていく必要があります。
地球温暖化の対策には、その原因物質である温室効果ガスの排出量を削減する(または植林などによって吸収量を増加させる)「緩和策(mitigation)」と、気候変化に対して自然生態系や社会・経済システムを調整することにより温暖化の悪影響を軽減する(または温暖化の好影響を増長させる)「適応策(adaptation)」とに大別できる。(中略)
なお、最大限の排出削減努力(緩和策)を行っても、過去に排出した温室効果ガスの大気中への蓄積があり、ある程度の気候変化は避けられない。それによる影響に対してとり得る対策は、変化した気候のもとで悪影響を最小限に抑える「適応策」に限られる。しかし適応策だけですべての気候変化の影響を和らげることも不可能であり、緩和策も同時に進める必要がある。
国立環境研究所 地球環境研究センター
例えば「緩和策」には再生可能エネルギーの利用、植林、炭素税の導入など、「適応策」には水害対策の強化、高温に強い作物の開発、都市の緑化、公衆衛生の強化などがあります。
緩和策で未来のリスクを減少させながら、現在進行形の影響に対して適応策を実施することで、被害を最小限に抑え、地域やコミュニティのレジリエンス(回復力)を高めて持続可能な暮らしを構築していくことが大切です。
「レインガーデン(雨庭)」は、この適応策の一つとして注目されています。
適応策としてのレインガーデン
レインガーデンとは、雨水を一時的に溜めて、ゆっくりと地中に浸透させるための植栽スペースのことです。
一般的なレインガーデンは、道路や建物などの不透水性面から雨水を集める窪地状の地形に、厳しい環境変化にも耐えられる植物を植栽して作られます。
また一般的な緑地と比較して、特有の機能や複合的なメリットによって、都市環境における気候変動の緩和策として重要な役割を果たすことができます。
レインガーデン特有のメリット
効率的な雨水管理
気候変動による影響の一つとして、短時間に大量の雨が降る「ゲリラ豪雨」の増加が挙げられます。
レインガーデンは雨水を一時的に保持し、徐々に地下に浸透させる設計となっているため、洪水リスクの軽減や排水システムへの負担軽減に優れています。
特にコンクリートやアスファルトで覆われた不浸透性面の面積が大きい都市や住宅地では、豪雨時に大量の雨水が一気に下水道に流れ込み、氾濫や浸水などの水害を引き起こすリスクがありますが、レインガーデンは、こうした豪雨によるピーク流量を抑制し、洪水リスクを軽減する役割を果たすことができます。
汚染物質のフィルタリング能力
道路や駐車場などの不透水性面に溜まった自動車のガソリンや排気ガスに含まれる物質が、雨水と混じって流れていくことで水質を汚染することがあります。
それ以外にも、雨水が地表を流れる際には、肥料や農薬、油、重金属、動物の排泄物、ゴミなどを含む場合があり、これらが最終的に河川、湖、海に流れ込むことで水質を悪化させます。
レインガーデンは、その土壌と植物を通じて、雨水に含まれる化学物質や重金属などの汚染物質を自然にろ過し、除去する能力を持っています。
この機能により、都市の水路や河川への汚染物質の流出を効果的に減少させることができ、水質の改善に寄与します。
空間の有効利用
大規模なインフラと比較して、限られた都市空間においても設置できるレインガーデンは、狭小地や余剰地を有効活用することで、都市部における緑地の拡大に貢献することができます。
特に土地利用が集約された地域や敷地において、緑のオアシスを提供することは非常に価値があるといえます。
さらに、レインガーデンには複合的なメリットがあるため、土地の利用を考えるときに有効な手段になり得ます。
レインガーデンの複合的なメリット

炭素吸収の増加
レインガーデンに植えられた植物は、成長する過程で大気中のCO2を吸収し、酸素を放出します。
これにより、都市部の炭素排出を削減し、気候変動の緩和に貢献する効果が期待されます。
一般的な緑地と同様に、レインガーデンは都市環境におけるCO2濃度を下げる効果的な手段となります。
ヒートアイランド現象の緩和
自動車・エアコン等からの排熱や、建築物の密集化・高層化、地表面の人工物での被覆などによって、都市では周囲よりも温度が高くなるヒートアイランド現象が発生しやすくなります。
温暖化にヒートアイランド現象が加わることで、都市部では特に熱中症等の健康被害や、感染症を媒介する蚊の越冬といった生態系の変化が懸念されています。
都市のヒートアイランド現象は、特に夏季に大きな問題となりますが、レインガーデンの植物の蒸発散によって周囲を冷やし、この問題を緩和します。
生物多様性への貢献
レインガーデンのデザインには、水が溜まる湿ったエリアと乾燥したエリアが共存し、それぞれのエリアに適応する地域固有の植物や、多様な耐湿性植物、耐乾性植物を取り入れることが一般的です。
これにより、多様な草花や低木が共存する小さな生態系を形成し、様々な生き物に栄養源と生息地を提供します。
教育的・美観的価値
レインガーデンは機能的な利点だけでなく、教育的な価値も持っています。
水循環や持続可能な都市計画について学ぶ場として活用されることができ、地域コミュニティの環境意識の向上に寄与し、季節ごとに変わる植物の姿は都市の景観を美しく彩り、心の潤いにも繋がります。
また、プランターから始めることで、より小さくレインガーデンについて学ぶ機会を作ることも可能です。
まとめ
レインガーデンは、特に都市部の限られた空間を最大限に活用し、環境的なメリットを複合的に提供することができるのが強みといえます。
気候変動の緩和策だけでなく、水害対策や生物多様性への貢献、住環境の美観向上、そして教育的価値など住環境の質を向上させる手段として有効に働きます。
ただし、レインガーデンの導入にあたっては、いくつかの課題も指摘されています。
まず、適切な設計と維持管理が必要不可欠な点です。
レインガーデンが本来の機能を発揮するには、雨水を効果的に集め、浸透させるための設計が求められます。
また、植栽の選定や定期的な管理も大切です。
さらに、レインガーデンの設置には小規模とはいえ一定のスペースが必要であり、都市部の限られた空間の中で大規模に展開するのは容易ではありません。
積極的な普及によって多くの場所で導入されなければ、そのポテンシャルを最大限に活かせないという課題もあります。
こうした課題はありますが、レインガーデンは気候変動への適応策として大きな可能性を秘めています。
今後、より多くの方がレインガーデンに興味を持ち、各地域の特性に応じた設計やメンテナンス技術が確立され、個人だけでなく、行政や企業、各種団体などのステークホルダーとの協働によって、より広範な展開が進むことが期待されます。
気候変動は、私たちの生活環境に様々な影響を及ぼし始めています。
その影響に適応し、持続可能な暮らしをしていくためには、大規模なインフラ整備だけでなく、自然の力を活用した小規模なグリーンインフラの導入が欠かせません。
レインガーデンは、その鍵を握る適応策の一つとして注目されており、都市と自然の共生を目指す新たな動きの中で、レインガーデンの役割はますます重要になっていくと考えています。
ぜひ、引き続きレインガーデンについて一緒に学んでいただけると嬉しいです。
また、レインガーデンに限らず、気候変動に対する適応策については様々な方法があるので、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)の適応策事例集などで、個々人の生活スタイルにあったアクションを探していきましょう。
事例のなかには屋敷林の保全・再生などもある通り、既にあるお庭を維持していくことも立派なアクションの一つです。
お庭のお手入れやお困りごとがありましたら、ぜひお声掛けいただければ幸いです。
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