前回は、フランスのジル・クレマンの「動いている庭」を見ました。今回は、ほぼ同じころ、オランダで生まれた、もう一つの「委ねる庭」を取り上げます。中心にいるのは、ピート・アウドルフという庭師です。
この庭の考え方は、私たちが「美しい庭」と聞いて思い浮かべるものを、静かにくつがえします。花が咲きほこる、その盛りの瞬間だけを美とするのではありません。むしろ、花が終わり、枯れていく、その姿にこそ、美を見いだそうとするのです。今回は、この「枯れてなお美しい」庭の世界を見ていきます。
枯れる姿にこそ、美がある
アウドルフは、1982年、オランダの村フンメロに、自分の庭を開きました。そこから、ナチュラリスティックガーデン、あるいはニュー・ペレニアル(新しい多年草の庭)と呼ばれる流れが、広がっていきます。
彼の考え方は、こう言いあらわせます。「花の色とおなじくらい、植物の姿かたちを大切にする」。咲いている花の色だけでなく、種を結んだあとの殻、葉のかたち、茎の立ち姿、そして冬に枯れて残る骨組みまでを、設計に含めるのです。多くの庭が、花の盛りの数週間のために作られるのに対し、アウドルフの庭は、一年を通して、移ろいそのものを見せようとします。
ここには、大きな転換があります。これまで、枯れることは、庭の「終わり」であり、隠すべきものでした。けれどアウドルフは、枯れていく姿を、生命のひとめぐりの、大切な一場面として、堂々と景色に組み入れます。茶色く立ち枯れた穂が、冬の光や霜にふちどられて、なお美しい。これは、第VII部で見た「終わらない庭」を、別の角度から照らす考え方です。庭は、完成して止まるのではなく、たえず移ろいながら、その移ろいのすべてが見どころになる。そういう庭です。
株ではなく、群落を植える
アウドルフの庭には、もう一つ、大切な特徴があります。一本一本の名木を見せるのではなく、植物の「群れ」を見せる、という点です。
草原のように、何種類もの多年草やグラス(イネ科の草)が、混じり合って広がる。どの株がどこにあるかを厳密に決めるより、植物どうしが、せめぎ合い、支え合いながら、自分たちで落ち着く場所を見つけていく。庭師は、その群れの全体の調子を整える役にまわります。これも、一つの「委ねる」です。
この発想の奥には、じつは、地道な科学の積み重ねがあります。ドイツやオーストリアで育った、植物社会学という考え方です。とくにリヒャルト・ハンゼンらは、それぞれの植物が、自然のなかでどんな環境に育つのかを調べ、「生育圏」という体系にまとめました。日なたを好む草、林のへりが似合う草、湿った地が合う草。その植物にふさわしい場所を選んでやれば、あとは自分の力で育つ。アウドルフたちの庭は、こうした研究と、直接つながっているわけではありません。けれど、「適した場所に、適した植物を」という、同じ問題意識を、作庭の側から、分かち持っていたのです。
日本の気候で、どう接地するか
ここで、立ち止まっておきたいことがあります。この庭が生まれたのは、北西ヨーロッパの気候のもとだ、ということです。
オランダやイギリスの夏は、日本にくらべて、涼しく、湿気も穏やかです。多年草は、ゆっくりと育ち、枯れた姿も、長く崩れずに残ります。ところが、日本の、とくに高温多湿の夏は、まるで事情が違います。植物の生育は、はるかに勢いがあり、枯れた茎は、すぐに蒸れて倒れてしまう。向こうで美しく立ち枯れる草が、こちらでは、ぐずぐずと溶けてしまうこともあります。海外の庭の写真を、そのまま日本に持ち込もうとすると、たいてい、うまくいきません。
大切なのは、見た目をまねることではなく、考え方を、その土地に翻訳しなおすことです。じつは、それを日本でみごとに試みた庭師がいます。ダン・ピアソンです。彼は、北海道の十勝に「ミレニアムフォレスト」という広大な庭を育て、日本の風土と植物で、群落として移ろう庭を実現しました。涼しい十勝の気候が、北西ヨーロッパに近いことも、それを助けました。海外の潮流は、輸入するものではなく、その土地の気候と植物に合わせて、もう一度、根づかせなおすもの。ピアソンの仕事は、そのことを教えてくれます。
ナチュラリスティックガーデンが伝えるもの
枯れてなお美しい庭は、私たちに、庭の時間についての、新しい見方を見せてくれます。
それは、花の盛りという一瞬を切り取るのではなく、芽吹きから、開花、結実、そして枯れていくまでの、いのちのひとめぐり全体を、景色として味わう、ということ。枯れることを、終わりとして隠すのではなく、移ろいの美しい一場面として、迎え入れる。そして、植物の群れに、自分たちで落ち着き先を見つけさせる「委ねる」のまなざしです。
ただし、その美しさは、土地の気候と固く結びついています。だからこそ、それぞれの土地で、もう一度、根づかせなおす手間が要ります。次回は、この「委ねる」を、さらに先へ進めた庭を見ていきます。種をまいて草原そのものを立ち上げる試みと、水をやらずに育てる庭の世界です。
参考にした資料
- Piet Oudolf & Henk Gerritsen『Planting the Natural Garden』(Timber Press, 2003/改訂2019)
- Piet Oudolf & Noel Kingsbury『Planting: A New Perspective』(Timber Press, 2013)
- Richard Hansen & Friedrich Stahl『Perennials and Their Garden Habitats(宿根草とその生育圏)』(独語初版1981、英訳 Cambridge University Press, 1993)
- Dan Pearson & Midori Shintani『Tokachi Millennium Forest』(Filbert Press, 2020)
── この章は、蔵書「庭の人文誌」の一冊です。
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