これからの庭へ、支配から、委ねへ

いよいよ、このシリーズの、最後の部です。ここまで、私たちは、庭の長い歴史をたどり、人が庭に、本当は何を求めているのかを、考えてきました。その締めくくりとして、最後にもう一つ、見ておきたいことがあります。いま、この時代に、庭が、実際にどう作られはじめているのか、ということです。

世界のあちこちで、これまでの庭とは、まるで考え方の違う庭が、静かに芽吹いています。食べられる庭、虫のための庭、土に委ねる庭、そして、半分を野生に還す庭。この第VIII部では、そうした「これからの庭」を、ひとつずつ見ていきます。そして、おどろくことに、そこには、前の部までに考えてきた答えが、現実のかたちをとって、立ちあらわれているのです。

世界で、同時に起きた、ひとつの転回

まず、大きな見取り図から始めましょう。

20世紀の後半、1970年代から90年代にかけて、ひとつの大きな転回が起こりました。面白いのは、それが、どこか一か所から広がったのではなく、別々の国で、別々の人によって、ほとんど同時に芽吹いた、という点です。フランスでは、ある庭師が、手入れを放した荒れ地を、そのまま庭にしはじめました。オランダでは、別の庭師が、花の盛りよりも、枯れていく姿の美しさに目を向けはじめました。イギリスでは、土を改良することをやめ、その土地に合う植物だけを選ぶ庭が生まれました。そして少し遅れて、種をまいて草原そのものを立ち上げる試みも続きます。さらにドイツやオーストリアでは、それぞれの植物がどんな環境に育つかを調べる、植物社会学の研究が、こうした庭を、科学の側から支えていました。

彼らは、たがいに示し合わせたわけではありません。それなのに、同じ方向を向いていました。まるで、地面の下で一本につながった菌糸が、あちこちで同時に、きのこを生やすように。その地下の一本の茎を、言葉にすると、こうなります。「自然を支配する庭から、自然と協働する庭へ」。これが、これからの庭を貫く、もっとも大きな流れです。

支配から、理想化から、委ねへ

この転回の意味は、これまで見てきた庭と並べると、はっきりします。

第III部で、二つの極を見ました。一つは、フランスのヴェルサイユ。自然を幾何学にねじ伏せ、王の意志を地上に刻んだ、支配の庭です。もう一つは、イギリスの風景式庭園。刈り込みを捨てて自然らしく見せながら、じつは膨大な土木で理想の風景を作り上げた、理想化の庭でした。支配するか、理想化するか。向きは逆でも、どちらも「人が自然を、思いどおりの作品にする」という点では、同じでした。

これからの庭は、その、もう一歩先にあります。人が、作品を作るのをやめる。かわりに、自然そのものに、作らせる。あるフランスの庭師は、この姿勢を、みごとな一言にしました。「なるべく自然とともに、なるべく自然に逆らわず」。庭師は、すべてを決める指揮者ではなく、植物のふるまいに耳をすます、観察者になる。支配でも、理想化でもなく、「委ねる」。これが、第VIII部を通して、くりかえし現れる態度です。

「囲い込み」の、反転

そして、この転回には、このシリーズの、いちばん最初に立ち返る意味があります。

第I部のはじめで、私たちは、庭の本質が「囲い込み」にあることを見ました。garden も、paradise も、語源は「囲い」。塀や垣根で、内と外を分ける。その線の内側を、手をかけ、守り、育てる。庭とは、世界から一区画を囲い取る営みでした。庭の歴史は、囲い込みから、始まったのです。

ところが、これからの庭は、その囲いを、ほどく方へ向かっています。雨水を、塀でせき止めるのではなく、庭に受けて地中へ流す。土を、掘り返して閉じるのではなく、菌糸や虫の通り道を開いておく。庭の外の生き物を、締め出すのではなく、招き入れる。水も、空気も、生命も、そして炭素までもが、庭を通り抜けていく。閉じた所有物だった庭が、流れの通り抜ける、開いた場へと、姿を変えていくのです。囲い込みで始まった庭の物語は、いま、囲いをほどく方へと、大きく舵を切っています。

これからの庭が伝えるもの

この第VIII部で見ていく庭たちは、じつは、前の部で出した答えと、深いところで響き合っています。

完成しない、終わらない庭(第VII部)は、毎年すがたを変える「動いている庭」として。応えてくれる相手を求める心は、虫や微生物に庭を明けわたす庭として。失われた楽園への回帰は、果樹の実る「食べられる庭」として。そして、所有から関わりへ、関わりからさらにその先へという流れは、ついに「庭を手放す」という、思いがけない地点にまで行き着きます。これからの庭は、人が庭に何を求めてきたのか、その問いへの、現実からの答えなのです。

次回から、その一つひとつを、見ていきましょう。まず取り上げるのは、「委ねる」という態度を、もっとも純粋なかたちでつらぬいた、フランスの庭師ジル・クレマンの「動いている庭」です。


参考にした資料


── この章は、蔵書「庭の人文誌」の一冊です。

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