観葉植物の歴史(2)、シダ熱から、現代のブームへ

前回、ウォードの箱と植物の狩人によって、観葉植物の文化が生まれた話をしました。今回は、その観葉植物への情熱が、社会全体をまきこむ、大ブームになった話です。

じつは、室内で緑を育てる流行は、これまでに、よく似たかたちで、二度くり返されています。一度目は、19世紀のイギリス。二度目は、まさに、いまの私たちの時代です。この二つのブームを並べてみると、人が、家のなかの緑に、何を求めているのかが、見えてきます。

シダ熱、ヴィクトリア朝の熱狂

19世紀の半ば、イギリスは、ある植物の流行に、すっかり夢中になりました。シダです。

人びとは、競ってシダを集め、家のなかで育てました。野山に出かけては、珍しいシダを探し求め、ときには、自然のシダを採りつくしてしまうほどでした。シダの模様は、食器や、布地や、さまざまな身のまわりのものにまで、あしらわれました。あまりの熱狂ぶりに、当時、「シダ狂い」という意味の言葉まで、生まれたほどです。

この流行を支えたのが、前回見た、ウォードの箱でした。ガラスの箱のなかでなら、煤(すす)で汚れた都市の家のなかでも、シダは元気に育ちます。人びとは、このガラスの容器のなかに、みずみずしいシダの緑を育て、部屋のなかにまるで小さな森を持ち込んだのです。これが、室内で観葉植物を育てる、最初の大きな社会現象の一つでした。

なぜ、シダだったのか

では、なぜ、よりによってシダが、これほど人気を集めたのでしょうか。

理由の一つは、シダが、室内の環境に強かったことです。シダは、薄暗い場所でも、湿った空気のなかでも、よく育ちます。日当たりがよくなく、空気も汚れがちな、当時の都市の家のなかでも、元気に葉を広げてくれたのです。また、みずみずしい緑の葉そのものが、美しいものでした。そして、シダを集め、育て、分類することは、知的で、品のよい趣味とされ、とりわけ多くの女性たちが、これに熱中しました。

ここに、見落とせないことがあります。シダ熱が起きたのは、産業革命のまっただなかの、煙にまみれた都市でした。自然から切り離された、都市の暮らし。そのなかで、人びとは、せめて家のなかにだけでも、みずみずしい緑を置きたいと、強く願ったのです。シダ熱は、自然を失った都市生活者が、室内に小さな自然を取り戻そうとした、最初の大きな試みでもありました。

現代の、観葉植物ブーム

さて、ここで、現代に目を移してみましょう。いま、私たちのまわりでも、よく似たことが起きています。観葉植物のブームです。

とくに、都市の小さな住まいで暮らす、若い世代の人びとが、部屋のなかを、たくさんの観葉植物で満たしています。大きな葉を広げるモンステラ、垂れ下がるポトス、ぷっくりとした多肉植物。SNSには、緑あふれる部屋の写真が、あふれています。庭を持てない人びとが、こぞって、室内の緑を育てているのです。

この現代のブームを動かしているものも、考えてみると、シダ熱とよく似ています。庭や、外の自然から切り離された、都市の暮らし。せまい住まい。そのなかで、緑とともにいたい、自然にふれていたいという、強い願い。そして、植物を育て、世話をすることの、心が落ち着く感覚。百五十年の時をへだてて、人びとは、また同じように、家のなかに、小さな緑を求めているのです。

二つのブームが、共通して語るもの

19世紀のシダ熱と、現代の観葉植物ブーム。この二つを並べてみると、共通して見えてくるものがあります。

どちらも、自然から切り離された、都市の暮らしのなかで起きています。どちらも、外に庭を持てない、あるいは持ちにくい人びとが、家のなかに緑を持ち込もうとしたものです。観葉植物とは、いわば、土地を持たない人のための、「いちばん小さな庭」なのです。一鉢の植物のなかに、人は、失われた自然との、つながりを取り戻そうとしている。

このことは、このシリーズの最初の問いに、深くつながっています。「多くの人は、庭そのものが欲しいのではなく、庭を通して何かを得たいのではないか」。庭を持てない人が、それでも一鉢の植物を育てるとき、その人は、いったい何を求めているのでしょうか。緑のある暮らしか、自然とのつながりか、それとも、世話をする相手か。この問いについては、最後の第VII部で、じっくりと考えてみたいと思います。

観葉植物のブームが伝えるもの

二度くり返された観葉植物のブームは、私たちに、大切なことを教えてくれます。

人は、自然から切り離されたとき、どんなにせまい場所でも、緑を求めずにはいられない。土地としての庭を持てなくても、一鉢の植物に、自然との関わりをこめようとする。観葉植物とは、その、人の根深い願いが生んだ、もっとも身近で、もっとも小さな庭なのです。

そして、この「小さな器のなかに、自然をこめる」という発想は、じつは、日本に、もっと古くから、深く根づいていました。次回は、その、日本ならではの小さな庭、盆栽と鉢植えの世界を訪ねます。


参考にした資料


── この章は、蔵書「庭の人文誌」の一冊です。

📖 「庭の人文誌」(目次)へ戻る

同じことを考えている、近くの棚: